第18回ファミリーコンサート 指揮者 湯川紘惠 に聞く

2022年7月2日(土)に開催の第18回ファミリーコンサート で指揮台に立つ 湯川紘惠 に、指揮者への挑戦、単身で世界を旅した体験段などを聴きました。

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母の歌声を聴きながら成長 部活での大役から指揮に覚醒!

部活での指揮者が転機と語る湯川

Q:今回、鎌倉交響楽団の「ファミリーコンサート」の指揮をしていただくことになった わけですが、湯川先生のご家族のこと、どのように指揮者を目指す気持ちを固めたか、 について教えてください。

A: 母が声楽科でしたので、母の歌声を聞いて育ちました。幼少期に母になんかやりたい楽器はある?と聞かれ私はピアノを妹はヴァイオリンを選び、それぞれ習っていました。
その後、私は中学で管弦楽同好会(中高一貫で中学1年生から高校2年生までが所属していました。)に入り、チェロを始めました。 その部活では顧問の先生やコーチにきて教えてもらうのではなく、生徒が曲を決めるのも全て自分たちで行い、意見交換したり、ちょっとした喧嘩もしたり、というような自主運営の活動スタイルの部活でした。高校2年のときには自分がその合奏部の学生指揮者となり、楽器を演奏する側から合奏練習のリードをしていく指揮者の役割となったことが良い経験となり、それを契機に自然に音楽のなかでも指揮に対しての関心、意欲が強くなっていったように思います。
ちょうど高校2年生の終わりに、幼少期に住んでいた東北で東日本大震災があり、何か力になれることはないかと考えたとき、音楽なのではないか、と考え、音楽家を目指そうと思いました。この急な決意には、両親はとても驚いたのかとも思います。

指揮科に女性は約6年に一人、大事な先輩と後輩

Q: そして東京藝術大学の指揮科に進まれたわけですね。大学ではどんな生活でしたか?指揮科というと男性が多いイメージがありますが。

A: 藝大指揮科の私の直前の女性は6年上の沖澤のどかさんで、指揮科に入った当初からとてもよくしてくださり、かわいがってくださって、たくさんのアドバイスや励ましの言葉をくださいました。ブザンソン指揮者コンクール(編集部注:小沢征爾がかつて日本人として初優勝)に優勝され、現在はベルリンフィルのアシスタントコンダクターを務められている凄い方なのです!!とても大好きな尊敬している先輩です。
一方、私の次に指揮科に入ったのは私の入学から5年後、𠮷崎理乃さんです。(編集部注:𠮷崎さんには今回のファミリーコンサートの練習指揮者で鎌響のご指導をいただいています)𠮷崎さんが入ってきたときにはかつて自分が沖澤さんからよくしていただいたことを改めて思い出して実感しましたの で、とてもかわいがっている大事な後輩です。彼女は北鎌倉女子学園音楽科出身で、鎌倉にもご縁があるのでぜひ鎌響の皆様にご紹介したいと思い、今回練習指揮をお願いしました。

鎌響は男女・年齢層の幅の広さが豊かなサウンドの源

ファミリーコンサートの合奏練習中の湯川紘惠と鎌倉交響楽団

Q:鎌響を初めて振ったときの印象について教えてください。


A:初めてお伺いしたときは下振り(注:本番指揮者は別な人で練習だけを振る役)だったと思います。もうずいぶん前から伺っているような気がしていましたが、まだ2-3年前ですね。最初の鎌響の印象はエネルギッシュ!です。若いエネルギーと人生経験多い方 との音のアンサンブルが感じられますね。老若男女、様々な方が一緒に音楽を愛し、文字通り音を楽しんでいる姿が素敵だなと感じます。コロナ前合宿に行かせて頂いたときには、年齢関係なく、団員の皆さんが仲良い!と感じました

湯川流世界旅行は とにかく渡航!

ロンドンでのアポなしワクチン接種経験談を語る

Q:今回のファミリーコンサートのテーマは「音楽で巡る世界旅行」ですが、ご 自身の世界旅行の経験談を教えてください。


A:音楽の道に進もうと決めてからの海外旅行は、これまで全部一人で行きました。
初めて行ったのは、スペインで、首都マドリードの少し郊外にエル・エスコリアルという田舎町があり、その町の講習会に行きました。田舎なので英語も通じず、一人で入れる飲食店もなく、食べ物を調達しようとしても話が通じない ので困っていたらそのへんにいた奥様たちが集まってきてわいわい世話を焼いてくれだし、結局つぎつぎに目の前に出されたものを全て買って帰ることになりました。 講習会のあと、その町のカルロス三世劇場という小さな劇場で、少人数のオケの公演を指揮させていただく機会をもらえました。
そのあとはベルリンに回って、世界最高峰のオケのひとつであるベルリンフィルをはじめ毎日演奏会を聴きに行くなどして、ヨーロッパの音楽都市の空気をいっぱいに感じてきました。

昨年は、コロナ禍真っ只中だったのですが、ロンドンのロイヤルオペラハウスで若い指揮者向けの講座があり、それに参加してきました。主催者からは このコロナ禍で日本から本当に参加できるのかと懐疑的な確認が入っていたのですが、構わずその数日後にはロンドンに向け飛び立っていました。現地での隔離期間もあり大変でしたが、ロンドンでオペラを振る体験ができました。日本に帰国するとまた隔離期間があってなにもできなくなるので、せっかくならとその後2か月ロンドンにいました。

ロンドンでのホテル隔離やワクチン接種などコロナ禍ならではの体験もよい思い出です。ワクチン接種は医師でも看護師でもなく、注射の打ち方をyoutubeで学んだというボランティアの一般人の方でしたが、今まで接種した中で一番上手でぜんぜん痛くなかったです!

クラシックファンでなくても、きっとお気に入りが見つかります

ロシア音楽に特に惹かれるという湯川

Q: 今回のファミリーコンサートの聴きどころをお客様に向けてお願いします!


A:今回は「世界を旅する」というテーマのとおり、それぞれの国特有の民族的な節が入った曲で構成されています。それぞれの国に行ったことがなく、よく知らないとしても、曲のなかから自然とそれぞれの国や地域の香りが感じられるのではないかと思います。
コロナ禍で海外旅行に行けない状況が続いていますが、ご来場頂いたお客様に、鎌倉芸術館の客席に座っているだけで異国を巡っているかのような気持ちを少しでも味わっていただければと思います。

私自身、民族感のあるメロディーやリズムにとても惹かれます。特に幼少期にバレエをやっていた影響か、ロシア作曲家の音楽は好きで、藝大の卒業演奏は全てロシア作曲家のものでした。修士の時はストラビンスキーの火の鳥、学士の時はショスタコヴィッチの交響曲第9番をやらせていただきました。

今回のメインの楽曲はドヴォルザーク作曲の交響曲第9番です。この曲の自筆の楽譜の表紙にはチェコ語と英語で「Z nového světa( From the New World)」と書かれており、このことから日本語では《新世界より》と呼ばれています。アメリカに渡ったドヴォルザークの故郷ボヘミアへの懐郷の情を表していると感じています。今遠く故郷から離れている方々への祈りを込めて演奏したいと思います。

お子さんから大人の方まで、どんな方に聞いていただいても、耳について離れないメロディーやリズムに出会えるプログラムになっていると思います。皆様それぞれのお気に入りを見つけに、第18回ファミリーコンサートにぜひ足をお運びください。