指揮者 山上 紘生 インタビュー

3月29日(土)に行われる第21回ファミリーコンサートを控え、指揮者山上紘生に父親との関係や、今回プログラムの魅力について語っていただきました。

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指揮者として複数回声がかかることに誇りと喜び

Q:先生には2023年大船祭りで鎌響を振っていただいて以来の来演をお願いすることになりました。多くのアマオケを振られている中、鎌響の特長をお聞かせください。

A:鎌響は団員数が充実していて、またその団員がいつもしっかり練習に参加されているところが良いと感じます。合奏していて、パッと息が合うところや、音楽的な反射神経がすごい団体だなと思います。
一昨年、大船祭り以降2回目に呼んでいただけたのですが、指揮者としてはもちろん初めて声がかかるときは嬉しいですが、その団体と2回目に繋がるというのは特に大切なことだと思っています。
2回目に呼んでいただいたからには自分にしかできない音楽をお届けしようと意識しています。

親子で同じ指揮者となって思うこと

Q:先生のお父様は指揮者の山上純司先生ですが、幼少期に父親のお仕事をどう思われていましたか?

A:生まれたときから父が指揮者だったので、指揮者自体は特別な仕事だと思っていませんでした。でも演奏会本番に父が指揮台の上で指揮をしているのを見るとすごいな、と思いました。
小学校のころに家では春の祭典(ストラヴィンスキーのバレエ音楽)が流れていて、それに合わせて指揮真似ごっこをして遊んでいました。変拍子も多い曲でしたし、指揮者はただステージで踊っているだけのショーではないのだな、とそこで気づきました。

Q:お父様の山上純司先生に、以前インタビューさせていただいたとき、息子は自分より有能、と褒めていらっしゃいました。ご自分では指揮者として父親と比べてどうだと思っていますか?

A:そこはもう、父より自分が上だと思って指揮をしています。

Q:どんなところが父親より優れている、と思えますか?

A:父より若いです(笑)。若さから来ることでもありますが、体力とエネルギーは父に負けません。日々マラソンしたりして培った根性とスタミナが父にない力ですね。

Q:逆に、こういうところは父親にかなわない、と思うようなことはありますか?

A:父のステージでの指揮者としての所作ですね。 演奏会で指揮台に向かう歩きかた、オペラで聴衆に歌手への拍手を促す際の振る舞いには存在感があり、すごいな、と思ってみています。
こういうところは父に見習って自分も身に着けていきたいところです。

指揮者という職業の苦労と楽しみ

Q:父親と同じ指揮者という職業につかれたわけですが、指揮者になってみて、これは思ってたのと違った、というようなことはありますか?

A:この仕事では当然のことではあるとは思うのですが、指揮するオーケストラと初めて対面して仕事を始めるときのプレッシャーは思っていたよりすごく大きいですね。
いつも準備は周到にしているつもりですが、大勢のオケ団員対自分として演奏を開始する瞬間のメンタルは想像をはるかに超えるものです。
また、リハーサルでは指揮者は音楽表現を言葉にしてオーケストラに伝える必要がありますが、自分はもともと喋りが得意ではなく、やりたい音楽を言語化するのが大変です。
本番ステージでも子供に向けた音楽教室などでは指揮だけでなく、子供の目線に立って音楽の話をしないといけませんが、指揮に付随するそういう役割も意外とたいへんだ、と感じています。

Q:苦労も多いと思いますが、これまで指揮者をやってよかった、と思える楽しみはなにかありますか?

A:指揮者は旅仕事が多く、旅がこの仕事の愉しみだと思います。いろんなところに行けて、その地の美味しいもの食べられることです。また、自分は鉄道が好きなので、行先の地でしか走っていない電車に乗る、ということも楽しいことです。

ラーメンはシンフォニーのような完璧な芸術

ラーメンは芸術

Q:美味しいもの、といえば、ラーメンがとてもお好きだそうですね?ラーメンのどんなところが魅力ですか?

A:たとえば、「ラーメン二郎」はどんぶりの上に野菜山盛りで、まずその野菜を食べて麺とスープへの期待が高まります。麺をすすり始めて主題が提示され音楽が始まり、スープとのハーモニーを楽しみながら食べ進めるわけです。思っていたより大盛で、とても完食できないんじゃないか、という葛藤もあり、そこを克服して食べ終わるときには達成感、充実感の頂点、そしてカウンター越しに丼を返すときがコーダ(終結部)でまるで緻密に構成されたシンフォニーのようだ、と思っています。

キャラクターの異なる作品を1回のコンサートで楽しめる

Q:さて、今回の第21回ファミリーコンサートでは、クラシックの中でも国やジャンルの異なる作品をご提供します。
皇帝円舞曲、アルルの女、ロミオとジュリエット、それぞれの曲の聴かせどころを含め、今回のファミリーコンサートのおすすめポイントを教えてください

A:作曲家3人とも、テンポ、リズム感、音色の柔らかさ硬さ、などいろいろな観点でまったく性格の違う音楽を奏でていますね。

まずJ.シュトラウスについては、ワルツですね。いかに自然な音楽を作るのかが難しいのですが、ウィーンの独特なリズムや香りを表現したいと思いますので、そこを楽しんでいただきたいです。

ビゼーはとても有名ですが、オーケストラ全員が同じ音楽を演奏している場面もあれば、フルートやサックスのソロがあったり、と変化に富んでいます。場面ごとにその楽器でしか出せない世界が広がりますから、その多彩な変化を聴いてほしいと思います。

ビゼーもその後に演奏するプロコフィエフも物語によってできた曲です。ロミオとジュリエットでは、愛の高まり、いざこざが起きる、大事な登場人物が死んでいく、そして悲しみの結末を迎える、というドラマチックな世界をどれだけ音で表現できるかというところにチャレンジして、そのドラマが伝わる音楽を目指したいと思います。
ファミリーコンサートにしては、ロミオとジュリエットは音楽も物語の内容も重く、小さなお子様がどう感じるのか、少し心配もありますが、多感な時期に大人の音楽に触れる、というのも貴重な体験になると良いな、と願っています。

クラシックという大きな音楽ジャンルの中でも、今回のような多彩な曲の組み合わせのコンサートは少ないと思います。
欲張りセットのようなコンサートで退屈することもなくキャラクターの違ういろいろな曲をお楽しみいただける機会だと思いますから、どうぞお楽しみにご来場ください。

2025年2月22日

ファミリーコンサートに向けリハーサルする山上紘生と鎌倉交響楽団