第118回定期演奏会に向けて 指揮者 田部井 剛 インタビュー

第118回定期演奏会まで1か月を切った9月25日、鎌倉交響楽団に初来演し、タクトを振る田部井 剛にインタビューを行いました。
(田部井 剛のプロフィール詳細はこちら

インタビューに答える 田部井 剛

Q:ご自身の鎌響との出合いについてお教えください。

A:コンマスの五味さんと何度かオーケストラでご一緒して、今回の鎌響の演奏会をと依頼いただきました。
実は神奈川県でのオーケストラ振りの経験が多いのです。県内の学生オーケストラでも5年に一度の第九を振っています。
他にもオーケストラ100人と合唱合わせて500人の大規模な第九を演奏する予定であったのですが、コロナで演奏会が無くなったりとしていますが、今まで色々な神奈川県のオーケストラにお世話になっています。

人は財産 充実したメンバーと歴史を有する鎌響に信頼と期待

熱の入ったリハーサルを行う田部井剛と鎌倉交響楽団

Q:鎌響では本日で5回目の練習となりますが、鎌響の印象はいかがでしょうか?

A:それは何と言っても団員の人数の多さでしょうか。市民オーケストラでこの人数がいるのは最高ではないでしょうか。やはり数は財産ですからね。
他のオーケストラでは少数のコントラバスが鎌響には8人もいて、全体の団員数も100名ほどとは、本当に財産ですよね。

また、この人数がいると指揮者としては安心して練習に臨めるわけです。人数が揃っていないオーケストラだと、代奏や抜けているパートを気にしないといけなく、こちらから指示を出しても代奏なので、となってしまうので、齟齬が起きてきてしまいます。これは仕方ないことですが、鎌響ではこのような心配が全くありません。
人は財産ということで、非常に素晴らしいオーケストラだと思います。
演奏においてはこれから発展途上という部分もありますが、ドン・ファンのような今回非常に難しい曲にしても、演奏中に鎌響が見せる集中力は素晴らしいことだと思います。

管楽器とか上手い人はすごく上手い人がいて、昔から知っている方もいっぱいいるし、そのようなメンバーとの再会も嬉しいし、名手がいることも団にとっては大事で、音楽の技術を高める上では良いことだと思います。

あと、弦楽器の人数も多いので、鳴りが良いと思いました。鳴ったときのサウンドが鎌響の歴史を物語っていると思います。

来年で創立60年という歴史を経て来ただけのサウンドには揺るぎないものがあり、ある意味伝統に則った太いサウンドが他の団には無いかな、と思いました。

丹念に折り返し音を集めてゆく

Q:初めて来演して、これまでのリハーサルで感じた鎌響の特徴はいかがでしょうか?

A:初回練習の音が集まらなかったのが少しビックリしました…。初回合奏の集中力が欠けていたとか、ボウイングが合っていないとか、最初は正直心配してしまいました。
ただ、本番まで折り返しとなった本日の練習では、随分良くなってきたと思います。

毎回の練習が3時間弱しかない中で、オーケストラ全体の音が温まってくるのが分かります。それが良いサウンドになって行くところが、鎌響の良いところであると感じました。

19世紀末 オーケストラ音楽最熟期のブリリアントな名作3曲を

演目の魅力を語る田部井

Q:今回の演目について、非常に難しいプログラムであることを初回の練習にもご指摘いただきましたが、指揮者からしての聴きどころを教えてください。

A:まず、この3曲については、19世紀終わりの15年間に作られた曲ですね。
ブラームスの交響曲第4番が1885年、そしてこの2年後にR.シュトラウスのドン・ファンが作曲されていますが、R.シュトラウスの才能はすごいですよね。そして、エルガーのエニグマが1898年。
オーケストラ音楽が一番熟している時期に書かれたこの3曲。技術的にも派手で、良い意味でブリリアントなサウンドがどれもする。
技術的に難しいところは難しい、ソロが活躍するところはどの曲にも多い。これらが聴きどころであると思います。ある意味名人芸を必要とする3曲ですね。

エルガーにおいては、オーケストラの協奏曲のような、室内楽と大編成のオケとのような小さい・大きいサウンドが交互するような音の楽しみ方、あとはソロとソロとの絡み合い方、そしてフィナーレに向けての盛り上がり方、このような部分が聴きどころではないでしょうか。
とりわけ第9変奏曲のニムロッドは、イギリスでは戦没者慰霊の際にもしばしば演奏される機会の多い、これぞエルガー、といったとても美しい1曲です。

R.シュトラウスはどの曲においても官能美ですよね。彼はオペラの作曲家で、奥さんが歌い手であったため、作曲する音楽はどれも歌に満ちていると思います。なので、官能美を表現できればいいかなと思いますね。

ブラームスに関しては、2楽章は古い音楽の音階が使われていて、4楽章はバッハのパッサカリアの主題が使われています。どの作曲家も最後はバッハに戻ると言われるように、今回のブラームスも最後はバロックの様式になるのですが、ハーモニーは後期ロマン派の色合いが強いものとなっています。
ブラームス自身にとってはこの第4番は相当な自信作となっているようです。リズムは2連符と3連符がぶつかり合い難しさがあるけれども、聴いていて日本人に馴染む雰囲気があって、哀愁を感じ、秋の空気がとても似合う作品であると思います。

Q:今回はどのような演奏を目指されていますか?

A:色々な演奏スタイルが好きなのですが、私は書いてある情報をきちんと作って演奏することが大事だと思います。
2拍3連は走らないようにすれば上手く音楽が繋がっていきますし、3連符から2連符とかいうところは、人間がごまかしやすいところでもあり、それをごまかさずに演奏することが曲のエッセンスに繋がるところでもあります。
ですので、書いてあることをきちんと演奏することを目標としたいと思います。
テンポは少しゆっくりするかもしれませんが、鎌響の皆さんがきちんと心地よく演奏できるテンポで良い音楽を作っていきたいと思います。

だれもが困難に面している今 救いと希望を音楽に込めて

Q:昨今のコロナ禍にあって、演奏家として思うところ、いらしていただけるお客様へのメッセージなどいただけますでしょうか。

A:私自身も昨年8か月も仕事が無かったので、人生について考えてしまうこともありましたが、その中でやはり救いとなるのが音楽でした。これは自分だけではなく、世の中の皆様もそうだと思います。
よって、コロナ禍における音楽の救い的な面、そして世の中徐々に光が見えてきていると思いますので、今回の鎌響の音楽がこの状況にマッチして、皆様の心に希望を与えられるようになれば、そしてこのような思いを大事に演奏をお届けできればと思っています。
私と同様に、コロナ禍の今だからこそ、音楽のありがたみにあらためて気づかされる、という方も、きっと多くいらっしゃると思いますので、是非演奏会にお越しいただき、生の音楽に接していただければと思います。