第123回定期指揮者 山上 純司インタビュー

2015年の第105回定期演奏会以来、9年振りに鎌響定期の指揮台に立つ山上 純司にインタビューしました。
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インタビューに答える山上 純司
堅実な組織と信頼のプレイヤーが支える伝統の鎌響

Q:鎌響を指揮されるのは、2015年の第105回定演以来、9年振りになると思います。久しぶりに接した鎌響の印象をお聞かせください。

A:組織がとてもしっかりしているオーケストラです。アマチュアでもマネジメントがしっかりしていることは大切だと思います。
また、練習への取り組み姿勢も本格的で、最初の練習のときから、メンバーの出席率が高く、欠席者がいたとしても代奏もきちんと立てていることがすごいなと思っています。
久しぶりにご一緒し、新しい奏者がいることは予想していましたが、昔からの団員も数多く活躍し続けているのがとても頼もしい、と思いました。

父子鷹の指揮者へ、息子を鍛え、また一緒に勉強の10年

Q:最近では鎌響では息子さんの紘生(こうき)さんにもご指導いただき、近々公演での指揮にも立っていただく予定になっています。父親のあとを追って指揮者のキャリアを積んでいる息子さんをどのように見てこられましたか?

A:息子の紘生は、ヴァイオリンを少しと、ピアノを続けてきた位だったのですが、高校2年生の時、私が指導していたジュニアオーケストラのフェスティバル出場にあたってエキストラメンバーとして参加したことが契機になって、突然「指揮者になりたい」と言い出しました。10年前のことですね。
私としては(遅いよ)と言いながらも(笑)、自ら受験のための指導をしまして、東京藝大を目指しましたが、1回目の受験にはやはり間に合わず不合格でした。
私が鎌響105回定期を指揮した9年前は、ちょうど浪人が決まったときで、彼も聴きに来ていましたね。
私も藝大へは一浪でしたので、彼にも「もう1年頑張ってダメだったら指揮者とは別の道を考えようかね」と話していたのですが、幸い2度目の挑戦で藝大指揮科に合格することができました。藝大では高関健先生、山下一史先生のご指導を受けました。
息子が大学院のときにコロナ禍になり、演奏活動も学校もストップする時期がありました。息子も私も外に出られなかったので、家で一緒にブルックナーの交響曲第8番の各稿各版の比較評価をするという課題に取り組んだりできたのは良い思い出です。

その後、息子は東京シティフィルの公演など、キャリアアップのチャンスにも恵まれ、活躍の場を広げてきています。私としては息子のほうがよい指揮者になるだろうと、親バカですが思っています。

「ハムレット」序曲 冒頭のティンパニはグリークへのオマージュ

Q:今回、チャイコフスキーの作品のなかで比較的知名度の低い「ハムレット」序曲をとりあげます。この曲の魅力はどこにあるとお考えでしょうか?

A:シェイクスピアの台本・芝居を読みながら私も勉強しているのですが、演奏者にとっては難しい曲ですよね。ただ、さすがオーケストレーションが良くできているな、と思います。
最初にティンパニのクレッシェンドしながらのトレモロで始まっているのが印象的です。その冒頭の8小節はグリークに捧げるためにわざわざ加筆されているのです。(編集注:グリークのピアノ協奏曲イ短調も冒頭ティンパニで弱音からクレッシェンドするトレモロで始まっている)

音の動き一つ一つに意味があるモーツァルト40番

Q:大きな音響となるチャイコフスキーの2曲の間に、モーツァルト40番を取り上げます。実はアマチュアには安易に手を出せない難曲ともいえるのですが、どのように仕上げていこうとされていますか?

A:ごまかしの効かない難しい曲ですが、私の指導コメントのひとつひとつに鎌響メンバーはちゃんと反応してくれて演奏してくれるのがすごいと思います。
派手ではない曲なのですが、アマチュアであっても、ひとつひとつの音の動きに意味を感じて演奏するだけでも音が変わり、お客様に伝わるものも違うと思いますので、鎌響のメンバーにはそれを感じてもらえるようアドバイスしながらリハーサルを進めています。
また、冒頭のビオラはアマチュアでは破綻しがちな難所ですが、鎌響ビオラは良く付いてきていてすばらしいですね。

スコアに書いてあることだけを誠意をもって再現 チャイコフスキー5番

Q:チャイコフスキーの交響曲のなかでも、特に起伏も大きく、豪華絢爛な5番ですが、山上先生のアプローチはことさらに煽り立てることなく穏健に感じます。この曲をどのように聴かせたいとお考えですか?

A:私のチャイコフスキー5番の読み方ですが、バレエ音楽をたくさん書いたチャイコフスキーは、テンポの動きが必要な場合やそのしかたを熟知していますから、テンポを揺らすべきときには(5番でいえば特に2楽章ですが)、譜面に細かく指示されています。
逆にいうと、譜面に書いてないテンポの変化は、チャイコフスキーとしては必要だと考えていない、私の演奏ではそのような意識をしています。
この曲は色々な指揮者がいろいろなスタイル、表現で演奏してきた曲ですが、今回はこの「楽譜に書いてあること」へのアプローチでやると理解していただき、私の棒に集合していただく演奏を実現したいと思っています。

Q:最後に、鎌響ファンや足を運んでいただくお客さまに向けてメッセージをお願いします。

A:今回は名曲揃いなので、たくさんの方に来ていただき、生の演奏、オケの醍醐味を味わっていただける演奏会にしたいと思います。どうぞお楽しみに、ぜひ鎌倉芸術館に足をお運びください。

123回定期に向けてリハーサルする山上純司と鎌倉交響楽団