第120回定期 指揮者 今井 治人 インタビュー
第120回定期演奏会を約1か月後に控え、指揮台に立つ今井治人にインタビューしました。
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週末に関東で指揮活動、平日は九州で教育活動
Q:現在の今井先生の音楽家/指揮者としての活動内容を教えてください。
A:もともとはオーケストラの演奏者から音楽家としての活動が始まったのですが、25歳頃から指揮活動が中心となりました。指揮者としての仕事が中心になってからもう30年近くたちますね。
また、自分自身の出身地ではないのですが、縁あって、15年ほど前から佐賀大学で教鞭をとっており、週のうち平日は佐賀で、週末は関東で指揮活動、というサイクルで仕事をしています。
大学では指揮法のほかにソルフェージュ(旋律を聴いて書き取ることや、楽譜に書かれた旋律を歌う訓練)等、学生の音楽の基礎力を鍛える授業で教えることもしています。
学生が教育のための音楽スキルを身に付ける仕組みとして、小中学生に教える前提で、学生と一緒にリコーダーをいっしょに吹いたり、鍵盤ハーモニカ、木琴などを使って合奏できるように曲をアレンジをしたり等、音楽教育に関わる幅広い領域に仕事が広がっていますね。
指揮者になるための入り口として、まず演奏学科に進学
Q:桐朋学園大学では最初指揮ではなく演奏学科でコントラバスを弾かれていたのですよね? なぜ、どのようにして指揮者に転身することになったのかを教えていただけますか?
A:いえ、演奏家から指揮者に転身しようと考えなおしたのではなく、実は最初から指揮者になりたいと思っていたんです。
中学生のころからオケが好きであり、オケのある高校を選んで進学しました。高校の部活動ではチェロを弾いて、学生指揮者としてそのオケを振ったりしていました。
本格的に指揮者を目指すには音楽大学に進もう、と桐朋学園大(小澤征爾の出身大学)のオープンキャンパスに出かけ、指揮者になりたい、と相談したのですが、なかなか難しいよと言われました。
指揮者を目指すとしてもその前に演奏学科に入ったら?例えばコントラバスならすぐ先生を紹介するよ、と先生の電話番号を渡されて、その流れのまま桐朋ではコントラバスを学ぶことになったのです。
でも、1年生の時にすでに指揮の勉強もできましたし、オケでコントラバスを弾くことで得た経験も、今のオケの指揮者としてのベースとなっているのかと思います。
Q:ズビン・メータなど、指揮者でもともとコントラバスをやっていたという人は割と多いですよね。
A:演奏者の目線でオーケストラを知るためにコントラバスはいいと思います。例えばコントラバスは、オケの後ろのほうにいて指揮も含めたオケの全体像が見えるので、オケの機能的な仕組みを勉強できるし、コントラバスは楽曲のバス進行を担うので、楽曲の構造を把握する勉強にもなります。
鎌響は新しい曲や指揮者へのチャレンジに積極的
Q:今回、鎌倉交響楽団には3回目の来演となりますね。鎌響のよいところ、改善課題など、鎌響への印象、ご意見をお願いします。
A:鎌響との初めての関わりは2016年のグラズノフの交響曲第5番でしたね。私は鎌響を知っていましたし、呼んでもらえて嬉しかったですが、随分マニアックな曲を、知らない初めての指揮者とよくやるな、と思いました。伝統あるオケですが新しいチャレンジに積極的ですよね。
当初から時間も経っていますし、3回目の来演となり、こちらの要求に対する団員の皆さんの反応や間合いの取り方が分かってきました。得意なことも苦手なことも理解できてきている気がします。
鎌響は、音が多い(オーケストレーションが厚く豊かな)ところがとても良く鳴るオケですね。一方、これはアマオケ共通の課題かもしれませんが、オーケストレーションが小編成になる弱音やソロのところで奏者が不安になっているな、と感じられるところがたまにありますね。
でも鎌響はいつも本番に近くなると、オケ全体でぐーっと上手くなって音も出てくるので、あまり心配はしていません。期待してそのぐーっとくる瞬間を待っていますよ(笑)。
派手なところより、繊細なところに曲のストーリー感を表現
Q:今回は3曲フランス音楽のプログラムとなっています。マエストロはフランス音楽についてどう思われていますか?
A:前回も鎌響では「ダフニスとクロエ」や「道化師の朝の歌」を演奏していますが、自分が要望したわけではないのに鎌響の選曲がすごいなと思いました。
私たち一般的日本人は、音楽の教育を受ける際、まずはドイツものから入りますね。私もそうで、フランスものにとりたてて深く関わるということはなく過ごしてきましたので、自分がフランス音楽が得意、とはあまり思ってはいなかったのですが、前回の演奏会での自分の手ごたえや、聴いた方からの感想なども踏まえると、結果としては上手くいった、と振り返ることができており、フランス音楽に取り組む機会をいただき感謝しています。
Q:幻想交響曲は、大規模なオーケストレーションの豪華絢爛な曲である一方、以外と古い曲でもあり、古今いろいろなアプローチの演奏がありました。今回は鎌響とどのような演奏をつくりあげたいか、目指すところを教えてください。
A:練習でもお話していますが、ただエネルギッシュに演奏を盛り上げようというのではなく、アンサンブルを丁寧に作っていき、そこから自然に各楽章の表現を作り出せたらいいと思います。オケとして大きくぐっと鳴らすところはもちろんそれなりに鳴らしますが、反対に薄く繊細に書かれたところを綺麗に演奏するなど、むしろ弱音の部分にストーリー感を感じていただける演奏ができるといいと思っています。
本日の練習はとても良かったですし、私が意図していることが皆さん分かってきたのではないかと感じる練習でした。
聴くことを優先すると大きなアクションの指揮は不要
Q:幻想交響曲は一般的には豪華絢爛な曲、という認識ですが、先生の振り方はいつも冷静で決して大振りされないですね?
A:アクションを大きく振りすぎると、耳が塞がって聞こえなくなる気がするのです。
指揮をするために聴くことに集中して適切にオーケストラとコミュニケーションができれば、結果的にはあまり大きな動作は必要なくなるはずだ、と考えています。
カール・ベーム(ウィーンフィルとの来日公演などで人気だった巨匠)の指揮も動きはとても少なかったですが、あれは今申し上げたようなオーケストラとの関係がしっかり出来ていたからです。
自分もオケの奏者であったときの経験もふまえて、それぞれの奏者の音を丁寧に聞きながら、自分自身も演奏しているオケの中にいるという感覚で指揮をしており、そのため控えめに振っているように見えるかもしれません。
小さい指揮の動きでも、オケはしっかり反応して必要なときはドーンと大きい音を出せる、というのが理想ですね。
60年の歴史と不断の活動の成果をお届けします
Q:最後に、ご来場を検討されているお客様に、120回定期演奏会の「推し」の一言をお願いします!
A:創立から60年という歴史的な時間の流れと、節目を実感する第120回定期演奏会ですね。
この2、3年、コロナでプロもアマも音楽家たちには苦難の時が続いてきましたが、鎌響がめげずに演奏活動を途絶えさせず頑張ってきたというその素晴らしい姿をお見せできるはずです。
これから本番までの残りの時間でラヴェルの2曲と幻想交響曲を楽しんでいただけるよう演奏のクオリティにもますます磨きをかけていきますので、皆様にはぜひ鎌倉芸術館に足を運び、鎌響の活動成果を堪能していただきたいと思います。
<2022年9月17日(土) 鎌倉芸術館にて>