19回ファミリーコンサート指揮者 小久保大輔インタビュー

2023年3月11日(土)に開催の第19回ファミリーコンサート の指揮を務める 小久保大輔 に、情熱的な指揮者だった祖父の影響、いまも同じ指揮者として活動する弟との関係などのお話をうかがいました。

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祖父 福永陽一郎の指揮する「カルメン」を見て育つ

インタビューで語る小久保大輔

Q:小久保先生は小さなころどんな子で、どんな生活をしていましたか? 音楽への興味がどのように芽生えて、どのように音楽家を目指すことになったのでしょう?

A: 自分は愛知県で育ったのですが、祖父(指揮者 福永陽一郎)が藤沢の市民オペラの指揮をしていまして、夏休みにはこちら湘南に来ては、その祖父のオペラを聴きに行ったりしていました。

自分の中で一番古いクラシック音楽曲の記憶が、その祖父の指揮する、彼の十八番であったカルメンだったのです。

今回鎌倉交響楽団からのお招きで指揮をすることになり、プログラムは鎌響側からの指定なのですが、自分にとって幼少期からクラシック音楽に触れるルーツにもなっているカルメンをプログラムの最初にご披露できることはすばらしいめぐりあわせですね。

小6で、中学生が演奏する「スペイン奇想曲」に圧倒され

プロアマが一体化して活動できることこそ音楽文化の価値

小学校6年生のときに、次に入る中学校の吹奏楽部の定期演奏会を聴きにいったのですが、スペイン奇想曲が演目でした。(編集注:愛知県春日井市立柏原中学校。同校吹奏楽部はこの曲の演奏で1986年全日本吹奏楽コンクール金賞受賞)今まで近所で一緒に遊んでいた仲間がすっかり大人びて、煌びやかなソロを演奏したりしていて、そのレベルに驚き、大人の音楽とはこうなのだ、と衝撃をうけました。
その後、同校吹奏楽部に入り、恩師桐田正章先生の影響を受けて、指揮者への憧れを持つようになりました。あの時に聴いたスペイン奇想曲がなければ、音楽家を目指して進んでいく、とはならなかったかもしれません。

今回の鎌響のファミリーコンサートでは、カルメンと同様に不思議な因縁でそのスペイン奇想曲を演奏するわけですが、かつて自分の人生を変えたともいえる強い印象や衝撃を、今回聴きにきてくださる誰かに再現してあげられることができれば、というモチベーションが沸いてわくわくしています。

祖父の話にもどりますが、祖父はアマチュアと一緒にやることが本当の音楽であることを繰り返し言っていました。
歴史的に言えば、貴族に届ける音楽から市民が楽器を持って演奏できるようになったのは市民革命による民主化の成果なわけで、アマチュアとプロが隔てなく音楽活動をできる環境こそ文化の充実、音楽の発展なのだ、という祖父からの教えが自分の中に信念として染みついて活動してきました。
今はプロの指揮者ですから、プロとの仕事でキャリアアップしていくことももちろん大事なのですが、今回のようにアマチュアと一緒に音楽を作っていく機会こそが自分にとって貴重な音楽体験であると思っています。

「二人で一体」になれたら最高! 弟 陽平との関係

仲良し兄弟大活躍中!(右:兄大輔 左:弟陽平)

Q:弟さん(小久保 陽平)も指揮者として活動されていますよね。弟さんとの関係はライバル?仲間?どんな関係で兄弟付き合いをしておられるのか、教えてください。

A: 今まで一度しか喧嘩したことなく、今でも仲良く飲みに行ったりしています。

お互いタイプは違うけど、良いと思うところは一緒で、求めている結果は同じだけど、アプローチが違う、みたいな感じでしょうか。自分に欠けたところを相手が持っていたり、その反対もあるので、ライバルという感じではないです。

足りないものをお互いが持っているので、二人が合わさったら良いと思っています。大好きな弟です!

オーケストラ練習時は鍵盤ハーモニカ必携

鍵盤ハーモニカでフレージングのニュアンスを伝える

Q:鎌響とのリハーサルでは必ず鍵盤ハーモニカを持参され、たびたびご自分で演奏しながら演奏指示をされていますね。いつごろから、どうしてこのスタイルをとるようになったのか、また「鍵盤ハーモニカ指導」の効用について教えてください。

A: 2007年くらいに、宇宿允人さんという指揮者のリハーサルを見学した際、マエストロが鍵盤ハーモニカを吹きながら指導する姿を見て、その印象が強く残っていました。
あるとき、自分の吹奏楽の指導のときに体調が悪く、オケに指示を伝えるのに思うように声が出なくなってしまったのですが、そのときに鍵盤ハーモニカを吹いてみたら、これは便利だなと思いました。

鍵盤ハーモニカは、複数の音を和音で出しながらクレッシェンドやデクレッシェンドができるおそらく唯一の楽器ですし、管楽器と同じようにブレスコントロールやアタックのニュアンスを再現することもできます。しかも、息遣いを工夫することで細かいピッチのコントロールを伝えることまでできるわけで、ダイレクトにオケの皆さんに指示を伝えられる非常に便利なツールだと思い、ずっと利用しています。

視覚聴覚で音楽を「浴びる」のがクラシックライブの楽しみ方

Q:今回のコンサートでは、クラシックの中でも定番、人気曲が並んでいます。耳慣れた曲でも、生の演奏会で聴くとこんな楽しみ方があるよ、という「クラシックのライブ」を楽しむポイントを教えていただけますか?

A: 生のコンサートの楽しみかたのいちばんは、「音を浴びる」ことです。聴覚はもちろんですが、視覚もつかっていろんなところを見てほしいですね。大勢の大人が一度に違うことして色々な音を出している環境は普段は見れないですよね。色々な動きを見ているとそれまでに気づかなかった色々な音が聞こえてきますし、ビジュアルと一緒に音がしっかり感覚に残ります。鎌響が忘れられない素晴らしい音を出してくれますので、目にも焼き付けながら生の音を楽しんでほしいですね。

居眠りしてもOK どこからでも楽しめるストーリー展開の「運命」

Q:ベートーベンの交響曲第5番「運命」は冒頭は誰でも知っている曲なわけですが、全体を30分前後の時間をかけて楽しむポイントはどこでしょうか? 小久保先生ならではの着目点や、ご自分の曲の仕立て方の特徴も交えて、「聴きどころ」を教えてください。

A: 次がどうなるんだろう?と予想しながら聴いてみると楽しいと思います。次は、やっぱりそうなるよね、と期待どおりにいくところと、え?まさかそうなるとは、とある想像を裏切られるところがありますよ。
1~4楽章までのストーリー展開も楽しんでいただければと思います。

あと、この曲は、もし眠くなって居眠りしてしまっても、起きたところからでもまた付いていける曲だから大丈夫なんですよ(笑)。

分かりやすい曲なので、曲の中の一瞬ずつであっても、今この瞬間はこのような音楽世界が広がっている、また次の瞬間には違う世界が、といった変化も感じることもできると思います。

それぞれの楽しみかたで「運命」を味わってください。

「運命」のリハーサル中の小久保大輔と鎌倉交響楽団